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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】レーシングドライバー松田次生の世界 第1回

2014.08.22 Fri

6月1日の第3戦オートポリスでの優勝に引き続き、8月10日の第5戦富士スピードウェイでも今季2度目の表彰台に上ったNISMO23号車の松田次生。マシンの開発能力には定評のあるベテラン35歳は、何を考え、速く走るために何をしているのか。知られざるコックピット内の世界を、これから毎週、4回にわたってお届けする。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
佐貫直哉=写真(ポートレイト) photograph by Naoya Sanuki
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara

■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ

松田次生は、コースの内側ギリギリに自分の進路を見つけ出し、思い切って前を行くライバル車の内側へ飛び込んだ。「これで順位をひとつ上げられる!」と思った瞬間だった。松田の乗るNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rは内側へ急に寄ってきたライバル車に行く手を塞がれて軽く接触した。

松田は思わずスピン、コース上に留まったものの大きく順位を落としてしまう。4月第1週、岡山国際サーキットで開催されたSUPER GTシリーズ開幕戦、決勝スタート直後のリボルバーコーナーでのことだ。

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(開幕戦岡山は7位でフィニッシュ)

松田は公式予選こそ6番手に終わっていたが、スタート時点では上位入賞どころか優勝を狙えるだけの手応えを感じていた。

今季、SUPER GTのGT500クラスは車両規則を大改定、シャシーもエンジンもまったく新しいマシンに生まれ変わった。松田はこの新しいGT-Rに昨年12月、初めてテストのために乗り込み、そのときからその素性の良さを感じ取っていた。

「前のモデルよりも、操作に対する反応がよくなりました。自分たちが理想だと思う走りに近づけられる。テストで走り出してすぐにそれを感じました」

ただしレーシングドライバーの「理想」は、安全と快適性を第一義とする一般乗用車の運転者の「理想」とはいささか異なる。レーシングドライバーは、常に前後左右4個のタイヤがどのような状態で路面に接地しているかを感じ取り、常に最大限の性能を引き出すようにブレーキとアクセルとハンドルを複合的に操って接地の度合いを調節しながらコーナーに飛び込んでいく。このテクニックを彼らは「姿勢を作る」と表現する。それにはきわめて繊細な感覚と操作が求められるのだ。

「今年のクルマは空力性能を追求して性能が上がった結果、車高のセッティングに敏感に反応します」と松田は言う。走行前、車高にわずか1mmのセッティング変更を加えただけでドライバーは空気の流れ方に影響を受けた操縦性の変化を敏感に感じ取る。言い換えればその特性差をセンシティブに感じ取り、あらかじめ適切な状態にセッティングができなければ、コーナリング中に理想の姿勢を作ることなどできないということだ。

「予選の一発は速いけれども決勝レースではタイヤを消耗させてしまって走りきれないセッティングもあります。そうならないようなセッティングをエンジニアと共に見つけ、相手よりも前でレースを走り終えるのがドライバーの仕事なんです」

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今年NISMOに移籍した松田は、新型マシンを相手にそのマシンの特性をいち早く読み取り、「レースに勝つための調整」をうまくまとめ上げて開幕戦に臨んだつもりだった。岡山での開幕戦でも内心、レースに勝てる見込みがあったのだ。

「それだけにあれはぼくの大きなミスでした」とオープニングラップでの接触について松田は反省する。

「結構強引に行ったのは事実です。ぼくは不意打ちでいけるかなと思っていた。でも相手がぼくのことを見ていなくて当たってしまった。あそこで攻めてくるとは思わなかったのでしょう。相手がこっちを見ていないかもしれない、というところまで考えずに、自分の都合だけで安易な攻め方をしたんです。今となっては、判断を誤った、もう1周待っても良かったと思います。あそこで当たらなければ、レースはもっと違う結果になっていたはずですから」

サーキットの上を時速300kmにも及ぼうという速度で突進しながら、わずか1mmの車高変化で変動するマシンをコントロールし、最適の姿勢を状況に合わせて作りだしつつ、ライバルと格闘しスキをついて順位を上げる。すべてが限界線上で、まるで綱渡りをしながらの戦いを繰り広げるのがレーシングドライバーという競技者なのである。

だが一方、SUPER GTは、ドライバーが超人的な能力を発揮するだけで勝るレースではないのも事実だ。(つづく)

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章レーシングドライバー松田次生の世界】

■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ

■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く

■第3回 心拍数200の全身運動

■第4回 勝つための引き出し

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