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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】レーシングドライバー松田次生の世界 第3回

2014.09.05 Fri

意外と知られていないのが、レーシングドライバーのアスリート能力。
レーシングスーツに隠されてはいるが、その肉体は筋肉質だ。
連載3回目は、過酷な全身運動にさらされるレーシングドライバーの実像に迫る。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
佐貫直哉=写真(ポートレイト) photograph by Naoya Sanuki
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara


■第3回 心拍数200の全身運動

シリーズ最長の鈴鹿1000kmレース、松田次生は接触寸前の格闘を繰り広げながら約1時間にわたる自分の受け持ち走行を終え、2番手でNISSAN GT-Rをパートナーのロニー・クインタレッリに引き継いだ。ヘルメットを脱ぐと、松田の顔面は汗にまみれ真っ赤に上気している。なにも、分厚い耐火レーシングスーツを着込んでいたからだけではない。彼は、肉体を長く過酷な運動にさらしてきたばかりの競技者なのだ。

コックピット内で、レーシングドライバーが何をしているか、多くの一般ファンは快適な量産乗用車を公道で運転した経験の延長線上に想像していることだろう。しかし、レーシングカーに乗って曲がりくねったサーキットを走り、ラップタイムを限界まで短縮する操作は、まったく異次元のものであり、レーシングドライバーは高強度の全身運動を強いられている。

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(コックピットには所せましと計器が並ぶ)

「今年のSUPER GTマシンの場合、ブレーキの最大踏力は80kgほどまでになります」と松田次生は平然と言う。80kgの力でブレーキペダルを踏みつけるのだ。一般人ならば思い切り蹴っても足りない力である。

ブレーキの最大踏力は、最高速から小さなコーナーへ飛び込むときの減速時に必要となる。だが、思い切りブレーキペダルを踏み込めば済むわけではない。

「80kgでブレーキを踏むと荷重が前に移動し、車体の姿勢は前に傾いて後が浮いた状態になります。その状態でハンドルを切るとスピンしてしまいます。だから80kgで踏んで初期の減速をしたら、そこから少し緩めて約50kgくらいまでの間でブレーキの踏力をコントロールし、車体の姿勢を調節しながらハンドルを切って向きを変えます。何十kgという力で踏んではいるんですが、常にミリ単位でブレーキを調節しながらコーナリングに入っていくんです」

サーキットでの運転は、きわめて特殊だ。コーナーの進入時にブレーキング力を調節しながら、ステアリングできっかけをつくって車体の向きを変え始める。いわばブレーキを使って曲がるのだ。一般公道を量産乗用車で走る場合にはタブーとされるこの走法は、車体が不安定になるが、その分早く走れる「高度なドライビングテクニック」なのである。

コーナリング中、ドライバーは不安定になった車体の、微妙な姿勢変化を感じ取り、繊細なブレーキ/ステアリング操作に反映させている。わずかでも限界線で走れなければライバルに負け、わずかでも限界線を越えてしまえばスピンしてコースから飛び出してしまうのだ。

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(第6戦鈴鹿で2位に入った松田/クインタレッリ組)

しかもこの間、ドライバーの身体には前後左右に重力加速度がかかる。深いシートにシートベルトで固定されているとはいえ、全身の筋肉を使って自分の姿勢を正しく維持しなければペダルやステアリングの微妙な操作はできない。

サーキットには大小15前後のコーナーがある。その間、こうした過酷な全身運動をずっと続け、決勝レースともなれば、1時間近く、何十周にもわたって繰り返さなければならないのだ。

「走行中の心拍数は、予選のタイムアタック時で200くらい。決勝レースで180くらいでずっと推移します」と松田は平然と言う。陸上競技の100m走選手の場合、最高心拍数は200を超えるが、これは人間の肉体の限界を超えかかっている数値だと言われる。予選タイムアタックで一発の速さを出しているときの松田は、100mを全力疾走するに等しい肉体的負荷にさらされていることになる。かつて、自転車競技のオリンピック選手は、レーシングドライバーの心拍が決勝レース中1時間半にわたって180前後を推移するというデータを見て、その異常な運動強度に絶句したものだ。

「毎年健康診断を受けているんですが、心肥大だと言われます。普通の人より心臓が大きくなってしまうんですね。何かスポーツやってますか? と必ず聴かれんです(笑)」

自分が受け持つ1時間強の走行の間、心拍数160から180で走る全力運動を続けながら、なおも冷静な判断力を保ち、感性を研ぎ澄ませていなければならない。それがトップアスリートとしてのレーシングドライバーの実像なのだ。(つづく)

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章 レーシングドライバー松田次生の世界】

■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ

■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く

■第3回 心拍数200の全身運動

■第4回 勝つための引き出し

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