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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】レーシングドライバー松田次生の世界 第4回

2014.09.12 Fri

自分はけっして天才型ではなく、努力型だと松田は言う。日々、速く走るためにはどうしたらいいかを考え、いろんなことを試してみる。自分の走りを分析する。レーシングドライバー松田次生はこうして、トップの地位に昇りつめたのだ。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
佐貫直哉=写真(ポートレイト) photograph by Naoya Sanuki
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara


■第4回 勝つための引き出し

シリーズ第5戦富士スピードウェイ。台風11号の影響で断続的に雨が降る悪コンディションの中、レースは赤旗中断されながらも続き、スタートドライバーのロニー・クインタレッリからレース後半を引き継いだ松田次生は2番手でレースに復帰した。途中強い雨にさらされながらもNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rを巧みに操って首位を追走、2位でチェッカーフラッグを受けた。

マシンを無事フィニッシュへ導いて厳しい戦いを終えた松田とクインタレッリは、大歓声の中、今季2回目表彰台に上がる。だが松田のレースはこれで終わるわけではない。レースを終え、サーキットから離れた後も戦いは常に続くのだ。

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(雨の中、松田はマシンを巧みにコントロールする)

松田は、十代でレーシングスクールに入校し、四輪レースデビューのスカラシップを得たことをきっかけに、国内四輪レース界でトップ選手となるに至った。しかし自分は天才型ではなく努力型であり、スクールで学んだのは基礎だけ、その後練習を重ねることで自分の能力を伸ばしたと松田は言う。

「与えられたクルマを速く走らせるためにはどうすればいいのか、ブレーキ、アクセル、ハンドルをどのタイミングでどのくらい使えば最適なのかと常に考え、経験を積み、‟引き出し”を増やしてきたからこそ、どんなタイプのマシン(GT、フォーミュラなど)でもすぐに対応できて速く走れるんです」

ある事象に対し感覚的に対応できる能力を天才と言うならば、天才型のレーシングドライバーは確かにいる。だが松田は違う。ひとつひとつ経験を積み、その対応を考えて‟引き出し”にしまい、必要なときに引き出しから対応策を取り出して走り、闘う努力型ドライバーである。松田は引き出しを、日々こつこつと増やしてライバルに対抗してきたのだ。

それはこんなエピソードからもうかがえる。数年前、松田はドリフト走行を練習に取り入れた。ドリフト競技は小さなコーナーで故意にタイヤを空転させて大きな挙動を作り、その姿勢制御について評価するフィギュアスケートのような種目で、一般にサーキットで行うレースとは異なるテクニックが求められると言われる。当然、レーシングドライバーの関心は低い。だが、すでにトップドライバーになっていた松田は、ふとしたきっかけで始めたドリフトからも、これまで気づかなかったヒントを見出したと言う。

「慣性を使ってクルマの向きを変えドリフト状態に持って行くきっかけ作りや、姿勢コントロールの勉強になります。レースに役立っていると思います。それにドリフトは、(サーキットの周回コースより安く借りられる専用コースで練習できるので)比較的手軽に練習ができますしね」

実際に自動車を走らせていないときも、松田はレースのことを考え続けている。彼はNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rに小型の車載カメラを搭載して、自分の走行時の映像を記録している。放送のためTVクルーが車載カメラを搭載することはあるが、全日本レベルの選手が自分のために、しかも自前で調達したカメラを搭載するのは希である。

「実際に映像を見ると、コースのどこでハンドルを切っているかとか、データには出てこない違いがわかるんです」

松田が言うデータとは、アクセル開度、ブレーキ踏力、ステアリング舵角など走行中の操作をコーナーごとに数値化して記録し、表やグラフにして自分の走りを確認するために使うロガーデータのこと。現代のレーシングドライバーやエンジニアにとって「データ分析」は闘うための必須項目である。だが松田はさらに車載映像を分析の材料に使っているという。

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(さまざまなデータを駆使しながらマシンを仕上げる。右はクインタレッリ)

「映像をデータと照らし合わせると、データだけではわからなかったことがわかる。最近も、映像を見ていて、ステアリングを細かく動かしすぎていることに気づいたんです。力が入りすぎて無駄な動きをしていたんですね」

サーキットを離れ、夜、自宅でくつろごうかという時間でも、松田はレーシングカーから収集したデータを眺め、自分のカメラで録画した映像と見比べながら自分の走りを振り返っているのだ。そして‟引き出しは”少しずつ増えていく。

こうして自分の走りを考え続けているうちに時間は経過し、次のレースが迫ってくる。今度は、「次のレースではどんなスタートを切ることになるだろう」と松田は考え始める。

「スタートにはセオリーはありませんから、本当にいろんな可能性を考えます」。考えすぎて、レース前1週間ほどは不眠に苦しむことすらあるという。

サーキットに現れた松田は、そこまでの長い練習と分析と悩みを戦果としてまとめあげるために、コックピットへ乗り込むのである。(了)

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章 レーシングドライバー松田次生の世界】

■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ

■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く

■第3回 心拍数200の全身運動

■第4回 勝つための引き出し

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