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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】チーム監督・星野一義の実像 第1回

2014.12.05 Fri

現役を引退して12年。かつて「日本一速い男」と呼ばれた星野一義は、いま、チーム監督としてレースを戦い続けている。チームを勝利に導くために、監督は何をしなければならないのか。星野監督の実像に迫る。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
白澤正=写真(ポートレイト) photograph by Tadashi Shirasawa
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara

第1回 眠れない夜

ツインリンクもてぎで開催された2014年SUPER GTシリーズ最終戦に、星野一義率いるTEAM IMPULはシリーズチャンピオンの座を賭けて臨んだ。安田裕信/オリベイラ組のカルソニックIMPUL GT-Rが重ねた選手権ポイントは60点。ランキング首位と7点差の4番手だが、1レースで最大20点獲得できることを考えれば逆転王座は射程圏内にあった。監督として週末を迎えた星野の胃は、焦燥感と闘争心でキリキリと痛んだ。

「もてぎは、決勝レースでは抜きにくいコース。だから最前列に並ぶつもりでいた」と星野は言う。しかし土曜日に行われた公式予選タイムアタックの結果は5番手、3列目だった。ポイントランキングを逆転するには、厳しいポジションからのスタートとなった。

予選後、ドライバー2人とエンジニアを集めて行われたミーティングで星野は怒りを抑えながら言った。

「本来の力が発揮できなかったことが不満だ。でも結果は結果だ。タイムアタックでオリベイラはミスを冒した。その失敗も失敗として認める。それならば、決勝ではどうすれば本来の力が出せるのかを徹底的に考えろ」

決勝レースでは予選タイムアタックとはマシンのセッティングも異なるうえ、戦略も重要になる。星野はドライバー交代のピットインをどのタイミングで行うかを含め、徹底的に決勝レースのシミュレーションをやり直させた。噴き出ようとする怒りは必死に押しとどめた。

その後、主立ったメンバーと簡単な夕食を済ませると星野はホテルの自室に引き込んだ。だが眠りにつくことはできず、決勝の朝3時頃まで悶々と時間を過ごした。

「レースの週末はレースのことで頭がいっぱいになる。寝ようとしても、ああすればああなる、こうすればこうなる、と頭の中で自然とクルマが走りだし、レースが始まるんだ。将棋などの勝負師は何十手先を読むと言うけど、ぼくの場合は、ヨーイドンした後、どのクルマがどうなってウチのクルマはどうなって、とレース展開が頭に浮かんでくる。決勝レースでは予期せぬ出来事もある。それを期待するようではいけないんだけど、いろんな可能性も考える。そんなことをあれこれ考えていたら、とても眠れるはずもないよ」

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明けた日曜日、晴れ渡った秋空の下、53周にわたる決勝レースのスタートが切られた。スタートを担当したオリベイラは、逆転王座奪取へ向けて猛然と加速した。ところが事態は思いがけない方向へ展開した。1周目のS字コーナーでオリベイラが前を行くマシンを追い越こそうとインに飛びこんだ際、相手と接触し、損傷を与えたばかりか、自らもコースから外れて大きくポジションを落としてしまったのだ。相手はIMPUL同様、王座を狙っていたライバルチームTOM’Sのマシンであった。このアクシデントで、2台のチャンピオンへの可能性は失われる形となった。

星野は落胆すると同時に怒りに震えた。興奮は頂点に達したがそれを押し殺してレースに立ち向かわねばならなかった。大きく順位を落としたオリベイラはレース前半を走り終えてピットに戻り、控えていた安田に交代すると星野の元へ事態の報告に向かった。

「帰って来たJPの腹に(軽く)一発くれてやったよ。子供の遊びじゃないんだ。あれですべての努力が無駄になったんだ。しようがない、とは言えないよ。JPは無言だった」

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その後、星野は希望を失ったままピットウォールテントに留まり、レース後半戦を見守ると安田が13位でフィニッシュした瞬間、ピットウォールを降りてそのまま帰路についた。

「興奮していた。だから舘(信秀 TOM’S会長)さんに謝りに行くのを忘れたまま帰ってしまった。あっ、謝らなくちゃいけないって、翌日気が付いた。僕は勝っても負けても、興奮が醒めて正気に戻るのは月曜日なんだ。謝れば済むという話ではないけど、舘さんに謝りに行ったよ」

サーキットに入ると、星野は何もかも忘れてレースにのめり込んでしまう。モータースポーツの世界に飛びこんで半世紀近く経つが、人一倍、勝利にこだわる姿勢は監督になっても変わらない。それが、星野一義という男なのだ。

チーム一丸となって過ごした週末が明け、一人になってようやく星野は通常の精神状態を取り戻した。気がついてみると、目前まで引き寄せていた王座は手元にはなかった。悔しさだけが残ったが、それが再び星野の闘志に火をつけたのは間違いないようだ。(つづく)

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章 レーシングドライバー松田次生の世界】
■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ
■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く
■第3回 心拍数200の全身運動
■第4回 勝つための引き出し

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