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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】長谷見昌弘のドライバー育成論 第1回

2014.12.26 Fri

’70年代から’90年代、長谷見昌弘は日産のトップドライバーの1人として、国内外のレーシングシーンで数々の戦績を挙げてきた。現役引退後は、自チーム運営を経て、今は日産の若手ドライバー育成に携わっている。柳田真孝、安田裕信、星野一樹、佐々木大樹など多くのドライバーを育ててきた長谷見の育成論に迫る。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
白澤正=写真(ポートレイト) photograph by Tadashi Shirasawa
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara

第1回 恐怖心に打ち克つ才能

「まずは、コースサイドで見ていて迫力が感じられる運転、こちらに伝わってくるものがある走りを評価します。最初は、ひとつのコーナーが完璧でなくてもいいんです。大事なのは飛び込み。目一杯で突っ込んでくること。こちらが外から見ていて、『あっ、止まれないだろうな!』と思ってしまうような走り方をすることが大事。そういうときは、案の定止まれないんですけどね、そういうドライバーは教えると速くなります。最初からきれいなコース取りをして『うまいな~』と思わせるような若者はそれ以上うまくならないで、大抵はそこで終わっちゃいますね」

長谷見昌弘は、レーシングドライバーの才能をそう語る。監督としての長谷見はピットでモニターを観たり、ピットウォールでストレートの通過を見るだけでなく、自らコースを歩き回り、主要コーナーの走りを観察し、直に感じようとする。自身の長い経験からもらたされた「迫力ある走り」は、長谷見ならではの育成哲学だ。

長谷見昌弘が若手育成に携わるようになったのは、現役引退後の2001年から。2011年、’12年と2年連続SUPER GTシリーズGT500クラスのチャンピオンに輝いた柳田真孝らを育て上げた。

2011年からはNDDP(NISSAN DRIVER DEVELOPMENT PROGRAM)の監督に就任し、世界に通用する若手レーシングドライバー育成を進めてきた。2006年に始まったNDDPは日産が支援する若手ドライバーの育成プログラムで、現在、全日本F3選手権、SUPER GTシリーズGT300クラスで活動を展開している。長谷見が監督に就任した’11年から、F3Nクラスの年間王者は千代勝正、佐々木大樹、高星明誠と3年連続NDDPのドライバーが獲得。佐々木は今年GT500クラスに参戦1年目で表彰台に上り、高星もF3でマカオGPに挑戦するなど、着々とその実力を伸ばしている。

また今年のGT300クラスには星野一樹とルーカス・オルドネスのコンビで参戦し、第7戦タイ・ラウンドで優勝を果たしてもいる。

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(GT300クラスでランキング4位つけたオルドネス(左)と星野)

現役時代は「天才型」と言われた長谷見は、若いドライバーの才能をコースサイドから見抜く。長谷見に育てられ、今年GT500ルーキーながら表彰台に上がった佐々木は、長谷見が「迫力ある走り」を評価してくれた、と述べている。長谷見の目には、若手選手の才能は走りの迫力を通して見えてくるものなのだ。

「迫力があるのは、才能があるか、ただの下手くそかなんですが、何回か見ればわかってきます。とにかく、腕の差はコーナーへの飛び込みで出ます。ブレーキングを人より遅らせて思い切り飛び込んだ後、そこでクルマを安定した状態で減速し、クリッピングポイント(コーナーの中でマシンが最終的に方向を変え終わる地点)へフロントの方向を変える。飛び込みには恐怖感がともないます。人間というのはうまくできていて、怖いと無意識のうちの足がアクセルから離れてブレーキに移ってしまうんです。それをどれだけ我慢できるか、そこに才能の差が現れるんです」

コースを周回しラップタイムを短縮するためには、できる限り速い速度でコーナーを曲がる必要がある。しかし、クリッピングポイントで速度が高すぎればマシンはスピンしたりコーナーを飛び出したりしてしまう。その限界までいかに近づけるか、それが才能だと長谷見は言う。

「クリッピングポイントの後は、誰でも速く走れます。アクセルを開け始めたら何の恐怖感も必要ないですから、腕の差なんか出ないんです。きっかけとか荷重移動とか、そういう領域の話は普通の話で、才能はそこでは関係ありません。とにかく最初からコーナーに思い切り飛び込めるヤツが有望なんです」

だが長谷見は、やみくもにコーナーに飛び込み、迫力ある走りができれば才能がある、と言っているわけではない。

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「ぼくの持論として、とにかくクラッシュしない、スピンしないということもあるんです。スピンして得することは何もない。遅れるだけです。壊せば、修復するのに限られた時間を浪費することになりますから」

ライバルよりも速く走れ、しかしクルマは壊すな。これは多くのトップドライバーやチーム監督、指導者が異口同音に語ってきた原則である。長谷見もまた、若いドライバーを育てるにあたって、この要求を突きつける。

「速く走ってしかも壊さない。無茶な要求だと思いますよ。でも、相反するこの二つを両立できて、ようやく一流になれるんです。しかも、それができる才能を持ったヤツがいるんですよ」

長谷見がそう強く要求するのは、それが厳しいレーシングドライバーの世界で生き残る絶対条件だからだ。(つづく)

【第4章 長谷見昌弘のドライバー育成論】
■第1回 恐怖心に打ち克つ才能
■第2回 1/2公開予定

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章 レーシングドライバー松田次生の世界】
■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ
■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く
■第3回 心拍数200の全身運動
■第4回 勝つための引き出し

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