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【Sports Graphic Numberタイアップ企画】長谷見昌弘のドライバー育成論 第2回

2015.01.02 Fri

2011年から日産の若手ドライバー育成システムであるNDDPの監督に就任。長谷見昌弘は、そのプログラムの中で、人間であるレーシングドライバーが、機械であるレーシングカーをいかに操って、勝利するかを教える。そこには、長谷見自身独学で培ってきた独特のドライビング哲学があった。

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大串信=文 text by Makoto Ogushi
白澤正=写真(ポートレイト) photograph by Tadashi Shirasawa
折原弘之=写真(レース) photographs by Hiroyuki Orihara

第2回 弱オーバーステアを乗りこなせ!

見出した才能は磨かなければ結果には繋がらない。日産の若手ドライバー育成システムであるNDDP(NISSAN DRIVER DEVELOPMENT PROGRAM)のプログラムでは、フォーミュラカーによる訓練を通してドライビングテクニックの習得を行っている。

「近年のSUPER GT500を乗りこなすためのセッティングやコントロールを学ぶにはフォーミュラカーでの練習が有効です」と、NDDP監督の長谷見昌弘は言う。

レーシングカーは、レース専用に開発されたフォーミュラカーと量産乗用車をベースに改造したツーリングカーに大きく分類できる。’14年、GT-RがシリーズチャンピオンとなったSUPER GTシリーズはツーリングカーレースの最高峰だが、レーシングテクノロジー満載の車両特性はむしろフォーミュラカーに近いものになっている。ではフォーミュラカーに乗って何を学ぶのか。

一般に、公式予選では積載燃料を最小限にしてタイヤを限界まで使い1周の速さを追求する一方、周回数の多い決勝レースでは、タイヤやブレーキの消耗を考えながらペースをコントロールする必要がある。当然マシンのセッティングも走り方に応じて変更する。だが長谷見は、どちらにせよドライバーは速く走る才能が必要なのだと言う。

「予選では(セッティングで)弱オーバーステアにしたクルマ、リアが滑るんだけど、滑ったときドライバーがコントロールすればどうにか収まる、そういうクルマを乗りこなさないとポールポジションは獲れません。でもそういうクルマを運転するのは怖いんです」

オーバーステアとは、わずかなステアリング操作に対して車体の方向が大きく反応して方向が変わっていく状態を言う。逆にステアリングをきってもなかなか車体の方向が変わらず、方向転換が鈍い状態をアンダーステアと言う。これらの特性はセッティングで調節できるが、一般にオーバーステアが強ければ向きが良く変わる一方、限界を超えてスピンしやすくなる。スピンすれば、ラップタイムを縮めることはできないし、場合によってはマシンを壊して修復のための時間を浪費する。これはドライバーが最も避けなければならない事態である。その状況の中、ドライバーはできるだけ速く走ろうとアクセルを踏みながら、自分が接しようとしている限界を全身の神経を研ぎ澄まして感じ取りながらマシンをコントロールしようとする。そこに能力の差が現れると長谷見は言う。

「馴れないドライバーの場合、特に高速コーナーではオーバーステアが怖くて『もっとニュートラルなセッティングにしてくれ』と言い出します。それでもガンガン、とにかく走らせて、それでタイムを出すことを覚えさせます。オーバーステアが怖ければコーナー入り口でアクセルを戻してもいい。フォーミュラカーはフロントの回頭性がいいので、フロントの向きが変わったらそこでアクセルにちょっと足を乗せて駆動をかけます。そうするとクルマはものすごく安定します。そのうち『ああ、怖いけどこっちの方が速いんだ』と、わかるんです」

長谷見はまた、新しい手法も取り入れている。現代の若手ドライバーは、レースの合間には練習のため街中にあるシミュレータ施設を使いこなしている。長谷見の現役時代は、コンピュータ技術が未熟でプロが練習に使えるシミュレータは存在しなかった。長谷見は、新時代のツールを用いた練習に意味を見出している。

「現役時代、初めてのコースに馴れる速さはぼくの特技で、普通のサーキットであれば10周もすれば大体タイムは安定してきたものです。でも、今は違います。日本のコースを知らないはずの外国人選手でも、たとえばオルドネスなんて、最初はたいしたことないだろうと思っていたんですが、シミュレータで練習してくるから初めてのコースでも5周もすると、そこそこのタイムで走り出すんです。これには驚いたな。コースを覚えるのには最高のツールです。ただ、その先は別なんですが。ゲームには恐怖感がありませんから」

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(欧州のGTアカデミーで才能を発掘されたオルドネス)

‘14年度、星野一貴と組んでNDDP GT-Rに乗りSUPER GT GT300クラスに出走し1勝を記録したルーカス・オルドネスは、GTアカデミーの初代チャンピオンに輝くなど、レースシミュレータによる選抜により本格的な4輪レースにデビューした異色のドライバーである。長谷見は当初、そうした経歴を軽視していたが、シミュレータでの訓練を活用したオルドネスの速さに驚き、シミュレータの意義を認めたのである。こうした新しい試みを交えながらNDDPは、次世代を担う若手ドライバーを着実に育てつつある。

‘14年、佐々木大樹はNDDPで前年同様全日本F3選手権を戦いながら、念願のGT500へステップアップし、シリーズ第7戦で2位入賞を果たした期待の選手だが、長谷見に言わせるとまだ学ばなければならないことが残されている。

「佐々木はいい素質をもっています。F3のNクラスでもチャンピオンになって結果も出しました。ただし、走り出してすぐにタイムが出せないという課題がある。スタートも下手です。スタートで周囲がパッと動き出したのに、佐々木は一呼吸遅れるんです。目から入った情報が手足に届くスピードが少し遅いんじゃないかなと思うので、ゲームセンターに行ってモグラ叩きを練習してこいと言っているんです(笑)」

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(GT500クラス参戦1年目で2位入賞をはたした佐々木)

佐々木大樹に続き、高星明誠は’13年度全日本F3選手権シリーズNクラスでシリーズチャンピオンに輝き、’14年末にはF3世界一決定戦でもあるマカオGPに出走、’15年にはさらなる成長を遂げることが期待される。新しいモータースポーツの流れに対応しながら、大ベテランが積み重ねた経験を通して指導を行う。NDDPが今後どんなニッサンの若手ドライバーの才能を発掘し、伸ばしていくのか楽しみにしたい。(おわり)

【第4章 長谷見昌弘のドライバー育成論】
■第1回 恐怖心に打ち克つ才能
■第2回 弱オーバーステアを乗りこなせ!

【第3章 チーム監督・星野一義の実像】
■第1回 眠れない夜
■第2回 山あり、谷ありの2014年シーズン
■第3回 チームの力を十二分に引き出すために

【第2章 GT500ルーキー佐々木大樹の可能性】
■第1回 HOT & COOL
■第2回 GTは抜き方、抜かれ方が重要
■第3回 23歳が刻んだ豊富な経験と幅広いテクニック

【第1章 レーシングドライバー松田次生の世界】
■第1回 1㎜の違いを見分ける繊細さ
■第2回 ヒリヒリとした緊張感が勝利を導く
■第3回 心拍数200の全身運動
■第4回 勝つための引き出し

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